空飛ぶ音楽祭野外ステージ舞台監督に訊く、六千字インタビュー
更新日:2023年9月8日
所沢市が進める「音楽のあるまちづくり」のシンボル的プロジェクト【空飛ぶ音楽祭2023】(外部サイト)が、9月23日~24日に開催される。
今回、有料ステージの1つ、野外ステージでは、世界に誇る所沢のレジェンド梅津和時を軸にしたブッキングを展開。ヘッドライナーには渋さ知らズ、吾妻光良 & The Swinging Boppersを迎える。
当日は舞台監督を務める、音楽喫茶モジョ(外部サイト)の工藤昭太郎氏に、ブッキングのコンセプトや空飛ぶ音楽祭への思いをお訊きした。
空飛ぶ音楽祭実行委員会 音楽喫茶モジョ 工藤昭太郎氏
- 2017年に空飛ぶ音楽祭が初開催されたときに、工藤さんに出演者のブッキングをお願いした経緯があったのですが、そのときはどんな心境でしたか?
もともと音楽のイベントをやるっていうのが、市民アンケートから出てきて、実際に音楽のイベントをやろうというときに、発信力のあるミュ-ジシャンを呼んで、全国区で認知されるフェスを目指すのにはどうしたらよいかっていろいろ考えたんです。外部のイベント屋からは、若者に受けるアーティストの提案もあったんですが、そのとき所沢でそれをやる意味は果たしてあるのかなってちょっと考えたんですね。地域の特性がやはりイベントに出ないと。
僕が持ったイメ-ジは、所沢にそもそもレジェンド級のミュージシャンがいっぱいいるわけで、まずその人たちに話を振って、もしオファーを受けてくれれば、例えば2回3回やったときに、アーティストから「わっ、あの人が出てるんだったら、こんなイベントたっだら参加します。」と言ってくれるんじゃないかと思ったんです。そのときピックアップしたのが、小坂忠さん、梅津和時さん、PANTAさん。その3人はね、意外と接点が無かったんですよ。それが非常にもったいないと思って、僕が声をかければ僕を通してみんな仲良くなれるかなぁと思ったところもあって、その3人を柱にしつつ、(元)たまの石川さんや鈴木常吉さん等、気がつくところ全部声をかけたんですよ。そういう人に声をかけたら、やっぱり所沢に住んでるっていう共通項がありますから、みんな仲良くなるんですね。PANTAさんとか小坂さんとかそうなんだけど、「俺、市から呼ばれて何かイベント出たことないんだよね~」って、そんなもったいないことないよなって思って。
先日、PANTAさんが亡くなったんですけど…。小坂さんの追悼ライブがあって、PANTAさんが手紙を送っていたんです。その追悼ライブの時にPANTAさん亡くなっていて、PANTAさん最後の手紙が小坂さんのコンサ-トで読み上げられて、それがまたいい話なんですよ。僕が想像していた先の話って言うのはこういうことで、この人たちが所沢に住んでてよかったなってなるじゃないですか。この記事が上がったときに、あ~やっててよかったって思ったわけです。
大滝詠一を業界に引っ張ったのは小坂さんだし、細野晴臣とか松本隆とか、お前らちゃんとできんだからバンドやるから来いって言って引っ張ったのは、全部小坂さんなんですよね。日本の芸能界のタレントさんからニュ-ミュ-ジックにシフトする草分けが小坂忠だったわけで。そんな小坂さんにスポットを当ててできたのはよかったですね。こんなことであの3人をまず呼んだんですよね。そこが決まっちゃえば、枠を固めるのはみんなでいくらでもできるから。
- 今回は梅津和時さんが出演ですね。
梅津さんが入れば、「うちも梅津さん貸してください、梅津さん入れてくださいって。」って引っ張られちゃうくらい繋がっている人たちだから、だから今回は梅津さんが看板になっているんじゃないかと思っているんです。その奇妙礼太郎さんとか、塚本さん、木村さん、バッパーズ、みんなやっぱり梅津さんと一緒にやってるし、七尾さんも梅津さんと一緒に演奏するしね。
渋さ知らズについては…所沢にジャズ喫茶の草分け的な老舗のスワンってお店があるんですけど、スワンは絶対スポットあてたいなって思ってたの。もうかれこれ50年以上営業しているジャズ喫茶で、新聞に載るくらいのお店だったんですよ。渋さ知らズは、スワンにずっと出演していた人たち。中心人物の不破さんていうのは、もうスワンに対するリスペクトがあるから、何か月に1回かはスワンに来てベース弾いているんですよね。
- そうすると、今回はそこまでブッキングに悩まれたということでもなく、もう自然に・・
いや、悩みましたよ。
- 悩みました?
うん、ブッキングって、僕のやり方なんですけど、まずトリを設定してトリに準ずる並びにした方が、お客さんとしても食いつきやすい。例えば、渋さ知らズってバンドがあって、その真ん中にアイドルグループが入るとか、全然関係ない疎遠な人が入ったときに、単体でお客さんは呼ぶけど、イベントの1日の興行として、こう波ができないっていうか。よくライブハウスでみるんだけど、バンドのお客さんがそれぞれ来て、バンドだけ見て帰っちゃうみたいな、そういう現象になっちゃうのは非常につまらないので。やっぱり、「あっ、渋さ知らズで、七尾さんか。」っていう、音楽ファンから理解されやすい並びってのは考えてたんですよね。
バッパーズも実はPANTAさんの盟友なんですね、吾妻さんが。そういうこともあって、まあ頭脳警察とか小坂忠さんとか、みなさんでやったイベントですよって、一言添えてオファーしたら、「うわ~それはちょっと僕たちも出させてよ。」ってなるんですよね。例えばそれを普通に若い子受けするアーティストをポンと頭に添えてやったイベントだと、多分みなさんそうなんだけど、自分より上の世代の音楽に対しては、ある程度知識はあるけれど、自分より若い世代の音楽に対しては、あまり興味、関心持たないでしょ。やっぱり、ベテランをまず軸の頭に添えるとやりやすいんですよね。集客するにもそうだし、イベントでブッキングするのもそうだし、そんなことがあるんですよね。
で、これは僕一人で考えたんじゃなくて、実行委員会に音楽好きな人が集まってますから、その人たちから話を受けて、「この人呼びますか?この人どうですか?」っていうことで、「あっじゃあ僕この人行けますから。」って感じでブッキングをしています。僕の主観で選んでるわけではないんですよね。
- どんな音楽ファンに来てもらいたいですか?
音楽ファンって一言で言って、その例えばピアノが弾けなくてもクラシックのコンサートに行く人いますよね。野球のライオンズファンもそうですけど、部活で野球やったことないし、ましてやキャッチボールさえしたことない人も多いと思うんですよ。野球のルール知らない人もいるかも知れない。だけど、この選手好きって追っかける訳ですよね。だから音楽ファンもそうなんですけど、決してファンに優劣はなくて、マニアにはマニアでとても下支えしている人だし、アマチュアバンドはアマチュアバンドでやっぱ草野球みたいな感じで。いろんなファンの形ってあるんですよね。
みんなに伝わるイベントにするって非常に難しいんですけれど、とりあえず誰を呼ぶかじゃなくて、空飛ぶ音楽祭が面白いよってことが認知されれば、例えば誰が次はブッキングされるかわかんないけど、でも行こうって思うわけですよね。
僕、フジロックに毎年行くんですけど、フジロックの早割っていうのがあって、誰が出演するか全く伏せた状態でチケット発売されるんです。殺到するんです、そのチケットに。僕も毎回買うんですけど。だいたい2回に1回は抽選に落ちるんですよね。だから、音楽ファンに認知されれば、例えばどういうブッキングであろうと空飛ぶ音楽祭はやっぱり面白いって、そういうことになるんですよね。うん、そこを目指したいですよね。つまり所沢が面白いっていうふうに認知されれば、何やったって面白くなるってことなんですよ。うん、そういうイベントにね、なるといいですよね。
例えば「ところざわまつり」もそうだね。サンバを入れて盛り上げようとか、山車で盛り上げようとかね。もう、お祭りっていう昔から続いているトラディショナルな空気に浸りたくて来るわけですね。でもその山車に対して誰も詳しい知識ないし。サンバも、あの~あっサンバなんだ、でもサンバ習ってみようとか、いるかも知れないけど、全員が全員じゃないでしょ。空飛ぶ音楽祭もそうなれればいいですよね。
外国でいうとグラストンベリ-(英)のフェスとか、アメリカ行くと、マチを全部ライブ会場にしちゃって、いろんなとこで1週間だか2週間だか同時にずっとやって、ミュ-ズみたいなところにトリで誰か呼んでみたり。そういうその毎日それをやっているのがニュ-オ-リンズなんだけど、お店全部がドア開けてど~んって音楽流して、世界中から人が集まってますけどね。
「音楽のあるまちづくり」って所沢市が進めているけど、こうじゃなきゃ、ああじゃなきゃってことは決してなくて、あなたにできる音楽のまちづくり、あなたにできる音楽のまちづくり、みたいな、多分そういう発想だと思うんですよ。僕は僕の発想で活動していて、たまたま空飛ぶ音楽祭を立ち上げるから手伝ってって言われて、一実行委員として参加しているだけなんですけど、でまあ僕ができるのはたまたまそのミュ-ジシャンと顔が繋がっているから、お声がけするならできますよっていうだけなんです。
- 工藤さんは、生まれも在住も三芳町ということですけど、なぜ所沢で音楽喫茶を始めようと思われたのですか。
高校が入間市で、所沢駅を経由して行ってたから所沢に友達も多少いたし、少し所沢のことは詳しかったっていうのはあります。三芳町には駅がないんですよ。西武線と東上線の真ん中に三芳町があるんです。でも、商売するにはやっぱり駅がないと厳しいかな。ましてや音楽ではね。最初は地元のアマチュアの人たちがお店に来て、演奏して、飲み食いしてくれればいいやと思ってて、そういう店をやろうと思ってたときに、やっぱり駅がないとだめだなって。そこで東上線にするか西武線にするか、はたまたもう1個行って中央線にするか考えたんですよ。中央線も非常に関わりがあったんで中央線に行こうと思って車運転してたら、府中街道が渋滞して、これは毎日は無理だと思って。親の介護の問題も出てくるだろうし、今度引っ越して何かするっていうのは、三芳町から通える所で考えたら所沢がいいかなって思って、まあそれくらいですかね。
- そういう事だったんですね
そうそう。三芳町にも三芳町の良さはあるし、富士見市に行けば富士見市の良さもあって。でも所沢もね、やっぱり住んでみて、こんなにいいとこなんだと思って、おかげで長く続いてます。
- 初めから「音楽喫茶」の形態で考えていらっしゃった?
ただ飲食店をやるのでは付加価値がないし、退屈しちゃうと思うんで、じゃ僕の趣味の音楽をそこに全面に出して、音楽を趣味とした人たちが集まれる飲食店をやろうってのがきっかけですね。だからライブハウス自体もさほど興味なかったです。何か一般的なライブハウスってのは、ライブハウスのルールがあったり、やり方があったりしますから。そこに対してはそんなに興味がなくて、ただ何となくガチャガチャその他の人たちが集まって、音楽を中心に演奏したり、歌たったりしながら、食べてもらったり、飲んでもらったりして、商売できればなっていうのを思いました。
同業者の人たちからモジョを見た時に、立地がまず導線じゃない。外れにあるし、その音楽でガチャガチャしてるし、そんなんでお客さん来んの?成立するの?っていうまず疑問の声があったり。ライブハウスやってる人からもその、ライブハウスのやり方だと出演者からお金を没収して、それで経営してるんだけど、うちは出演者からお金もらってなくて、来てくれた人たちが飲み食いしてくれたお金でやりくりするって言ったら、え~それじゃ成立しないでしょって。でも僕の中では、なんか要はそんなこと別に問題ないんじゃないのって思ってました。だってお客さん満足すればリピ-トしてくれるから。1日に10人から20人来てくれて、そこでお金落としてくれればいい話だからあまり気にはしなかったですね。むしろ熱烈なファンが100人くらいいて、ずっとリピ-トしてくれればお店って成立しちゃったりもするし。
- お料理も絶品です。
まずは料理ですね。うん。料理は結構あちこちで修行しましたね。音楽をやる店だよっていうけども、商品は料理ですから。お酒と乾きものだけ出せばいいだろうっていうところも非常に多いんですよ。でも、そういうお店が上手くいかないってのは、経験からわかってたんで、1軒目からここで食事が食べたいっていう人が来ないと。で料理を勉強しましたね。最初行ったのがミャンマ-料理屋さん。あと沖縄料理屋だとか中華料理屋、若い頃寿司屋でもバイトしてましたし。
- ほんとにいろいろなジャンル・・・
ええ、とりあえず、全部やりましたね。
- 音楽活動(フルネルソンズほか)もされていますが、音楽も始められたきっかけは何だったのでしょうか。
中学のときから音楽好きだったんで、学校行ったら友達からバンドやるけどお前一緒にやらないかって言われて、誘われてやっただけですね。
- 楽器は?
ギターをそのとき始めました。
- なぜギターに?
「俺歌うから、お前ドラムやりたいんでしょ、じゃあ、あとお前ギタ-か。」みたいな感じですよね。
- そういう感じで・・・
だいたいそんなもんですよね、最初にバンド組むときってジャンケンとかでね。誰もべースやりたがらないし。もしくはギターは弦が6本でベース4本だから、4本の方が楽かなって人もいるし、そんなもんですよね。たいした理由は無いんですよ。
- 空飛ぶ音楽祭の話に戻るんですけど、今回の出演されるアーティストのファンの方へ向けたメッセ-ジはありますか。
ファンの方たちにあえてメッセ-ジを送るとしたら、ファンというか音楽業界に対してもそうなんですけど、西武線を使って池袋とか新宿とか国分寺とかから、あっという間に来れる所沢ってマチで、しかも駅を降りれば目の前に公園が広がってて、そこでこれだけ素晴らしい催しができるっていうのは素晴らしいことなので、それをみんなに認知してもらいたいっていうかね。ファンの人たちに楽しんでもらいたいです。こんな環境で音楽を楽しめるんだってことを、気付いてもらえたらなと思ってます。
イベントオーガナイズする人たちも所沢でそんなことができるんだったら僕たちもやりたいねって。西武球場ってこんな風なってんだとか、所沢に気付くきっかけになってもらえればなあと思いますよね。
そもそも市民のやりたいことにこうやって行政がバックアップするってのには、それなりの付加価値があるものだとは思っているんですよ。ただ、例えば公園に大きい砂山を作りましょうって言って、市民で集まって大きい砂山を作って、イエーィって言って、自己満足していてもそれは外になかなか伝わらないし、うん、やっぱり所沢っていうブランド力を上げるっていうことが、ひとつ付随するメリットでもあるんじゃないかと思いますよね。
僕は決して所沢に住民が増えればいいとかそういうことは一切思わないの。むしろね、人なんか増えたら、社会福祉で支出が増えるから住みづらい街になっちゃうんで。だからもう、インフラなんか整備されなくてもいいんです。もう所沢渋滞ばっかして行きたくないんだよなって、来なきゃいいよって、思っちゃう。いいのいいの。ただ福祉と文化は、所沢はしっかり力を入れてますっていうのは僕はすごく素敵だなと思って。
海外に行くと、ニュ-オ-リンズ行ったって道路に穴あいてますからね。で、どこの店のトイレ入ってもあの、トイレ詰まってるし。だいたい、ウォシュレットなんかある国そうそうないし、もうこれ以上ね、清潔だったり、利便性高めたりするっていうのは、要求があるからみんなやってるし、そこはね、お金撒きやすいから使いますけど、いいじゃん別にってもう思うときありますよ。
福祉と文化はね、頑張り続けていただきたいと思います。それがマチのブランド力に繋がればいいなと思ってますよね。
- 今回初めてこの空飛ぶ音楽祭に来てみようと思う人へのメッセージをお願いします。
僕は15年ぐらい前に航空公園で同じようなイベントやったんですけど、バッパーズをトリにしたんです。そしたらミュ-ジシャンが結構みんな見に来てて、バッパーズが出るなら俺行くよって言って、そのミュ-ジシャンづてに若い子たちが来たんですね。
4、5年前かな、やついいちろう(エレキコミック)さん、自分でフェス開いてるんですけど、やついさん今お奨めの一曲じゃあかけてもらいましょうって、バッパーズかけたんですよ。そのときのコメントが、「10年くらい前に所沢でイベントがあってお目当てが別にいたんです。そのお目当てを見に行った時のトリがね、バッパーズだったんだけど、全く知識がなかったんだけど、全部もってかれちゃって。それから僕はバッパーズの大ファンになっちゃったんですよ。」って言ったのをラジオで聞いて、うちのカミさんが涙声で僕に連絡くれて、いやいや今すごいことラジオでかかってたよって、アンタいいことしたねっなんて言われちゃって。
同じように、何も知らなくて来た人が、え~何、こんなに面白いの、こんなにすごいのって感じてくれたら嬉しいですよね。それが5年後10年後思い出として語られるってのは、美しいですよ。う~ん、それがやっぱり芸術の力じゃないですか。
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