令和6年11月号 丸山正樹さん(小説家/国際エミー賞ノミネート作品の原作者)
更新日:2024年10月27日
プロフィール
丸山 正樹さん
(市内出身)
デビュー作「デフ・ヴォイス」(文春文庫では「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」に改題))が2023年にNHKでドラマ化。
同ドラマは2024年国際エミー賞テレビ映画・ミニシリーズ部門にノミネート。
93歳になる父も喜んでくれているはず。
幼い頃から運動が好き。
趣味のボクシングは長く続けている。
(写真撮影 椋尾 詩)
信じる道を進み続けて、新しい自分に出会う
簡潔な文が美しく心地よい。行間からほんのりと温かい気持ちが伝わってきて、読了後は爽やかな余韻がある。そんな作品の数々を紡ぐのは、小説家の丸山正樹さん。
小学5年生のときに所沢市に転居し、小手指小学校に通う。明るく社交的で、勉強も運動もそこそこできた優等生。転校当初こそおとなしくしていたが、新しい環境にもすぐになじみ、のびのびと過ごした。小学校ではサッカーに熱中し、中学校では剣道部に所属。折しも高校生の主人公が剣道部で活躍する青春ドラマが人気を博していた。丸山少年もドラマの主人公のように、青春を謳歌した。
自信と希望に満ちていた日々は、高校受験に失敗して一変する。初めての挫折だった。都内の高校に進学し、剣道部に入部したがなじめずに退部。学校の帰りに映画館に通いつめて、映画の世界に浸った。黄金期であったテレビドラマにも魅せられ、シナリオ作家という職業も意識するようになった。映画とテレビドラマに救われ、ひねくれずにすんだ。
進路選択の時期を迎えた頃、かわいがってくれていた叔父が急逝。人生の儚さを知り「人生は短い、だから自分のやりたいことをやる」と決意。早稲田大学第一文学部へ進学する。大学では遊んでばかりだったと苦笑い。けれども、明るさを取り戻せた大切な時期であったに違いない。
山田太一脚本のドラマ「早春スケッチブック」に感銘を受け、大学卒業後はシナリオライターを志す。アルバイトをしながら、シナリオを書いてはコンクールに応募する日々。「諦められるのは選択肢を持ち得る者。自分には他に道はなかった」と言う。
いつかは映画やテレビドラマの制作に携わりたいという思いを胸に、啓発や教育などの広報ビデオのシナリオを書いて生計を立てていたが、30代で結婚し、シナリオライターの仕事を続けていくことが難しい状況になった。いつしか心の奥深くにしまっていた小説家という選択肢を意識するようになる。うまく行かなければ、今度こそ心が砕けてしまう。けれども、自分の置かれている状況を考えると、小説家の道に挑むしかなかった。
粘り強く執筆し、新人賞に応募する日々。苦悩を乗り越え、ついに2011年49歳のときに「デフ・ヴォイス」でデビュー。もうずっと暗い闇の中で生きていくのかと諦めかけていた頃を思うと、今は夢のような心地だと言う。「憧れていた小説家になれて、自分の人生は上出来。過去にしがみつかず、これからも自分が書きたいと思ったものを書いていきたい。それが自分なりの恩返しだ」と語る。
ところで小説「デフ・ヴォイス」の主人公は、続編以降は所沢在住の設定。読み進めていくうちに主人公の住んでいる地域も目星がついてくる。市民であれば、なじみのある場所が出てきて、小説の世界を一層楽しめること間違いなしだ。
(取材:上地)
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